Filigran.
クレープを食べ終わってドリンクを飲んでいるとき、
不意にほっくんがその話を切り出した。
「ゆきが悩んでるの、前に話した人のことだろ」
やっぱり、全てお見通しだったらしい。
「…うん」
7月のクーラーは少し肌寒く感じることもある。
脱いでいたカーディガンを羽織り直して言った。
「前みたいに傷付けたくなくて、私も傷付きたくなくて逃げちゃった」
自嘲気味に笑うと、いつかのほっくんの表情に似ているかもと思った。
結局、私達は似た者同士だった。
「…やっぱり、まだ怖い?」
そうやって普段は見せない落ち着いた雰囲気のほっくんに聞かれて
私はその通りだと、静かに頷いた。
「私だって『好き』には『好き』で返したい。」
「でもあの時みたいにまた消えちゃったら…?」
「自分じゃどうにもできないから、何よりも怖い」
怖いんだ、ずっと。
臆病なこんな自分が、だいきらい。
「…今のお前はまだ好きなの?」
私達お決まりの、目的語の無い会話。
だけど、はっきりと答えられる。
「…好きだよ、大好きだよずっと」
「だから…、だからこわいの」
ずっと深海で泳げずにいるみたいに苦しい。
いつの日か私も、地上に出られる日がくるのだろうか。