Filigran.
カフェをあとにしてから、
近くのショッピングモールに入って見て回っていると、
もう17時を過ぎていた。
「俺たち明るい時間に帰るのがモットーだもんな」
「そうそう、小学校から門限変えてないもんね」
二人で遊ぶときはそんな、ふざけたルールでお開きにする。
ほっくんのおかげで気分も浮上したかもしれない。
いつもは通らない知らない道で、
一駅分だけ歩こうと散歩していたそのときだった。
どこかで見覚えのある建物の横を通る。
何だろう、この綺麗なビルどこかで見たことがある…。
そう言って凝視して考えて、
記憶の片隅にある「『GlassCraft』の所属する事務所」だ、
ということを思い出した瞬間と、
そのビルから彼が出てきたのは、
丁度同じタイミングだった。
「…は?」
彼は私と目が合うや否や泣き出しそうな顔になって、
隣にほっくんがいることを認めると、瞬間で酷く冷たい表情になった。
1カ月前に見たときよりも、少し瘦せているように見える。
髪色は金髪から茶色に変えたらしい彼は、
すぐに私のそばまで来て腕を取ると、
「…ねぇ、どうして俺じゃない?」
そう、冷たい声色で私に問うた。
あまりの怖さに声が出せない私を引っ張ってどこかへ連れていこうとするから、
助けようとしてくれるほっくんに手を伸ばして、
「ほっくん!」と叫ぶと、弓弦君は信じられないほどの声量で叫んだ。
「呼ぶなよ…ッ!他の男の名前なんか…」
心から苦しそうな顔をしてそう言う彼は、事務所の裏口まで私を連れていく。
周囲からは死角になる場所で建物の壁面に私の背を押し付けると
私を閉じ込めるように、その両腕を壁に置いた。
「…そんなに俺から逃げたい?」
彼の瞳を直視すれば今でも好きが溢れそうだからと、
必死で目線を逸らしていれば、そんな風に言われた。
その弾みで思わず彼の瞳を見ると、
愛おしいものをみるような、それでも切ないような、
苦しそうな感情が映っていた。