Filigran.


「…ごめんね」


「こんなに想ってしまって、ごめん」



そうしてやっぱり、彼の目から涙が一筋伝う。





卒業のライブで泣いたと聞いたとき心底驚いたのは、


彼が普段はあまりにも泣かない人だからだ。


それなのに私のせいでこんなに泣かせてしまっている。





…愛しい人、泣き止んで。





そう願って思わず親指で滑らすように涙を拭ってあげて、


我に返ったときには、






彼は私のおでこにキスを一つ落としていた。







それからゆっくりと唇を離した彼は


まるで大切なものみたいに私の頭を撫でて言う。



「本当にずるいね、まだ好きにさせるんだ」




その声色があまりにも優しくて、私まで泣いてしまいそうだった。









「しつれいしまーす、俺も友達のそういうの見たくないんだけど」


「今から、男子会と女子会が開催されまーす」




刹那、響いたのは小学校の頃からの友人の声。


目の前で柔らかな雰囲気を出していた弓弦君は一挙に殺気を出して、


「なにお前、邪魔しないでくれる?」とほっくんを威嚇している。





「邪魔じゃないよ、お前らを助けるためだから」


「行くよ、千夜弓弦」


あぁもう。


彼が千夜弓弦だと、流石にバレていた。


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