Filigran.


きっとどうしても、どうしても外せない用事があったんだろう。


参加できないことを残念に思いながら、涙を呑んだのだろう。





そう自分に言い聞かせてどうにか心を保とうと努めた。






だって、最後のライブならいないわけがない。






そう思って立つ最後のステージ。


スポットライトに照らされる俺だけを目に焼き付けてほしい。





明転してファンの表情が見えるようになる。



歌いながら、踊りながら、移動しながら。



ずっと客席に目線を配り続けた。










雪乃はどこにもいなかった。







人数が多いから見つけにくいんだろう、でも最後だから絶対に雪乃にファンサしたい。




アリーナもスタンドもトロッコに乗った時も。



全部、全部見た。




それでもどこにもあの子はいなかった。



自然とアンコールの時には涙が零れてしまった。





雪乃、ねぇ雪乃。


俺のこともう飽きてしまったのかな。


アイドル辞める俺に愛想尽かした?


ずっと好きでいるって嘘だったの?





今から君の世界に行くのに、雪乃はもう俺のこと好きじゃないのかな。


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