Filigran.
それからは必死でどうにか雪乃の心が欲しくて。
だから体育祭の終わりに言われた言葉が、
何よりも苦しくて、全てを投げ出したくなるほどの凶器だった。
アイドルじゃない俺が愛されないなら、アイドルに戻るしかない。
自分でもどこかで狂ってると分かっていた。
それでも、俺には雪乃の愛情だけが必要だった。
何度も事務所に通って「もう一度アイドルになりたい」と頭を下げた。
当然、そんな身勝手な話が受け入れられるわけがない。
だけれど俺の心の不器用さ、というか不気味さを分かってくれていた大人たちは
決して俺を拒絶することなく、ただ話を聞いてくれていた。
もうずっと眠れなくて、食事も喉を通らない。
何度目か分からない事務所からの帰りで雪乃と会ったときは、
幻覚でも良いから会えて嬉しいと思った。
だけれど隣に男がいるのに気づいた瞬間、もう怒りが止まらなかった。
俺の方が雪乃を好きなのに、雪乃はその男を選ぶの?
俺の愛情は拒絶しておいて、それの愛情は受け入れるの?
もうどこかに閉じ込めてしまいたいと思った。
俺には雪乃が必要で、それが無いなら朽ちるだけだから。
そんな激情で、だけどそれを雪乃にぶつけるのは間違いだって分かってた。
もう何度思ったか分からない「ごめん」を呟いたときに、
不意に雪乃が慈愛のこもった眼で俺の涙を拭うから。
本当に、ずるい人だと思った。
俺のことを好きにはなってくれないのに、俺には、際限なく好きにさせてくる。