Filigran.
その後には俺の大嫌いな男が「男子会だ」とかほざいて、
近くのご飯屋の半個室の席に連れていかれた。
向かい合って座るなり、気づけば俺は目の前の男を睨んでいた。
「…その目、俺がゆきと握手会行ったときもしてきたよな」
そう言われて、やっぱりあのとき気づかれていたのだと分かる。
そんなことよりも正直、
「ゆきって呼ばないでくれる?あの握手会のときからお前のことが嫌いで仕方ない」
そうやって雪乃のことを親しげに呼ぶ方が気に食わない。
そう言えば彼は、
「こっちはゆきと小学生から友達やってんだから文句言うな」
と涼しげな顔で返してくる。…俺だって、雪乃と同じ小学校が良かった。
「マウントとるのもやめてくれない?腹立つ」
そう文句ばかり言うのに、
「…綺麗な顔に似合わず、案外口が悪いのな」
そうやって憐みの目を向けてくるから、
あぁそうだよ、俺の中身はほぼ子供だよと悲しくなった。
とはいっても時間も時間だからお腹は空いているので、
夜ご飯として定食を頼んだ。
「…で、俺が千夜に話したいのはゆきの過去のトラウマ」
定食が来るのを待つ間に、目の前の男はそう言った。
彼は真剣な目で俺を見ると、
「正直話す許可なんてもらってない。
だけどこれをお前に伝えてゆきに絶交されても、それは仕方のないことだと思ってる。」
そう、覚悟を決めている口調で言った。
その心の強さに圧倒されそうになってしまう。
「お前はゆきの王子になりたいんだろうけど、俺がなりたいのはゆきの騎士だから。」
「俺が死んでもあいつが無事ならそれで良い。」
どれほどの思いで雪乃の傍にいるのかは分かったけれど、
その真意が掴めない。
探るように彼の表情を見ると、笑ってこう言った。
「話を始める前に、この世界でゆきにしか伝えてない重大な俺の秘密を教える。」
「俺は、高藤北斗は」
生まれつき、恋愛感情を持ってない。