Filigran.
自分が思わず、目を大きく見開いてしまったのが分かる。
その反応を想定していたように微笑んで、高藤は話し始めた。
まぁ、俺の恋愛感情とかは一旦どうでも良くて、
中学の頃の話になるんだけど。
ゆきに好きな人が出来たんだ、中2の夏だったかな。
俺たちは小学生の頃には一緒の委員会みたいなのもしてて、
あの中高一貫校に行ったのが俺らだけだったから、
必然的に仲の良い友達だったんだ。
だから、ゆきも好きな人ができたときに一番に教えてくれて、
俺もめちゃめちゃ応援してた。
…本当はもう、小学生の頃には自分に所謂『恋愛感情』が無いことは分かってたから、
どうやって手助けできるかも分からなかったんだけど。
そんなある日ゆきが泣きながら俺の元にやってきて、
「あの人に告白された」って言うんだ。
『好きな人に好きって言われるのは嬉しいこと』だって、
それは友達とか家族に対する愛情しか持たない俺にも分かってた。
…じゃあ、なんでゆきはそんなに泣いてるんだろうって思って聞いたんだ。
そうしたら、
『好きって言われて嬉しいはずなのに、次の瞬間には「好き」が無くなっちゃった』って言った。
正直、全然理解が出来なかった。
でもゆきの話をたくさん聞いて、無い思考回路で必死に考えた。
好きだと思ってたのに相手に好きだと言われたら、自分のその思いが消えてしまった。
つまり、自分でも制御できない感情の動きがあったんだって理解できた。
それにゆきは続けて言った。
『思わせぶりって言わせちゃった。当然だよね、私が傷つけたんだよね』って。
もうどうしようもないくらい泣いてて、
『私、一生恋愛できないのかな…』って言うから、今自分のことを言うしかないと思った。
それで、俺は初めてそのとき自分のことを人に打ち明けたんだ。
『俺は生まれつき恋愛感情が無いんだ』って。
自分の欠落を誰にも知られたくないってプライドよりも、
ゆきみたいな孤独を背負ってる人間がここにもいるって知ってほしかった。