Filigran.
ほどなくして食事が運ばれてきた。
最近は殆ど食事をとっていなかったけれど、この定食は美味しそうで食べられる気がする。
「でも正直どうしてゆきがああなったのか、その理由は分からない」
高藤の観察眼をもってしても、雪乃の過去のトラウマが引き起こされた理由を導けないらしい。
「…雪乃に好きな人がいたことに嫉妬してる場合じゃなさそう」
彼の話してくれた内容で唯一引っかかったことを口に出せば、
「『なさそう』じゃない、『ない』」とさすがに咎められた。
自分にもコントロールできない感情って本人は辛すぎるだろうけど、
一体、雪乃に俺が何をしてあげられる?
蓮人みたいに人の心に敏かったら良かった。
「…でも」と高藤が食事の合間に切り込んだ。
「ゆきの自己評価の低さは関係あるかもしれない」
「自分は愛されるべき存在じゃないって、心のどこかで思ってるんだ」
「だから学校でもどこでも進んで人の役に立とうとする。自分の価値を探して」
その言葉を聞いて「あぁ」と納得した。
もしかしたら、正反対だと思っていた雪乃と俺は似ているのかもしれないって。
愛に飢えている俺と、愛に怯えている雪乃は、
案外心のどこかを共有できるのかもしれない。