Filigran.


「だから、美花は今こうして助けようとしてる。雪乃を」


その言葉にハッと心が大きく動揺する。


紅茶の水面に映る私の表情は、ゆらゆら切なそうだった。





「雪乃のつらさを聞いて考えて、正解を出してあげることは美花にはできない」


「だって雪乃の方がかしこいから、そんな答えなら出せちゃうもん」



美花は見惚れるような所作で一口紅茶を飲むと、


ご令嬢、と形容できるゆったりとした微笑みで言った。



「だから正解なんて探さないでうだうだ話そ?」


「雪乃の中にある、しんどいことぜんぶ」



そんな優しいことを言われてしまったら、


もう、涙も言葉も止まらなかった。






「…私は、好きな人の『好き』を受け入れてあげられないの」


ぼろぼろと零れるのは、私のいちばんのコンプレックス。



「そうなんだ」


美花は相槌を打って、とりとめのない話も受け入れてくれる。


「全部、自分が悪いって分かってるのに…」


そう言ったとき、美花から鋭い言葉が飛んできた。


「ちがうよ。訂正して、雪乃は悪くない」


あぁ、こうやって言ってくれる美花の優しさが、強さが大好きだ。


「…ありがとう」

< 84 / 92 >

この作品をシェア

pagetop