Filigran.


「私が臆病すぎたから、大切な人を傷つけちゃった」


「未来の彼を傷つけたくない…そう思って結局今の彼も傷つけた」



私の中からは、


もう取り返しのつかない懺悔しかうまれない。





好きなのに、好きでいたいのに


『好き』と向かい合ったときに、また消えちゃうんじゃないかって




自分はなんて弱くて、まともに好意と向き合えない奇妙な人間なんだろう。


そう思って何度も悔やむのに、美花は何とも思わない声色で言う。



「雪乃はやさしいね」


「…優しい?」


「今の雪乃は、その大切な人のことどう思ってるの?」


「…大好きだよ、大切だよ」



ずっと変わらないその思いを言葉にのせれば、


美花は嬉しそうに笑って、



「じゃあ『今』の雪乃のきもち大事にしてあげよ?」


「あとのことは、あとで考えても良いんだよ。美花はいつもそうやってベンキョを後回しにする」



そんなふうに茶目っ気たっぷりに言った美花は、舌をチロリと出して笑う。



「雪乃はやさしいから、真面目だから大切な人の未来まで大切にしようとする」


「今の雪乃がどうしたいか、誰といたいか。そのあとは、そのあとに取っとこうよ」




正解を持たないという美花は、うそつきだ。


やさしい間違い方に見せかけて、いつだって私に正解の寄り添い方をしてくれる。


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