Filigran.
そのとき不意に美花のスマホが着信を告げた。
いつもは電話をしない美花だから、どうしたのかなと思っていると、
彼女は分かりやすく不満げな顔をする。
「ちょっとはやかったなぁ、まだ雪乃と話したりないのに」
と言ってから「出るね」と私に目配せをして、通話開始のボタンを押した。
「…もしもし…うん、お家…?りょうかい、うちの高級車が飛ばしてく」
「…うん、うん。…じゃあ」
誰と話しているかも検討がつかない美花は、すぐに電話を切ると真剣なまなざしで言った。
「雪乃、こころの準備して」
この子は何を言い出すかと思えば、何を言い出したんだろう。
「今から雪乃はうちの車に乗って送られて、とある人の家に行きます」
「そこの人と雪乃はだいじなお話をします。そこで美花とやくそく」
美花は、優しくやさしく微笑んで言った。
人の幸福を真摯に祈る女神さまみたいだ。
「ぜったいに、雪乃の気持ちに素直になるんだよ」
「雪乃以外の誰のことも思いやっちゃだめ。今の雪乃の気持ちをそのまま話して。」
差し出される美花の細くて長い小指に、私の小指を結びつけた。
私は、やっぱり断言ができる。
世界で一番の親友を持ったんだってこと。