Filigran.
言われた通りに乗り込んだのは、先ほどの高級車だ。
「松井さん、これは絶対に他の人に言っちゃいけない住所です。」
「ここまで、美花の親友を連れてってください。」
美花は自身のスマホを運転手さんに見せて「おねがいします」と頼んでいる。
ていうか、お手伝いさん何人体制なんだろうと気になって、
何だかソワソワしてしまう。
「雪乃はきんちょうするかもだから、ちゃんと美花がついてくよ」
と言って隣に座ってくれた。
運転手の松井さんがバックミラー越しに微笑んでくれたから、
はにかんで一つ会釈を返した。
心地よいクラシックの流れる車は、安全運転で静かに走り出す。
スルスルと変わる景色の中で、だんだんと高級住宅街に入っていく。
周りに綺麗で高層なマンションばかりが見え、その光景に圧倒される。
まもなくして到着したのは、
そんな豪華で美しいマンションのひとつだった。
途端に緊張してきた私は、
「…どうしよう、美花」とあたふたしてきてしまう。
安心させるように彼女はニッコリ笑って、
「美花の親友なんだから大丈夫」
そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「お部屋は一番上の12階。1201号室だよ。」
「…いってこい!」
そう言って、美花は抱きしめていた腕をバッと解いた。
美花の笑顔は、いつも私の心をほぐしてくれる。
「運転手さんありがとうございました。」
「…美花、ありがとう」
「行って来ます!」
私が車から降りるとき、美花はとんっと背中を軽く撫でた。
振り返ると「だいじょうぶ」と言って笑顔で頷いてくれた。
やがてその扉は閉まって、
素敵な車は、素敵な人達を乗せてまた静かに夜の街へと繰り出して行った。
「…よし」