Filigran.



「ちょっと座って待ってて、一瞬で髪乾かしてくるから」



通されたのは黒を基調としている、落ち着いた雰囲気のお部屋だった。


黒の光沢がきれいな皮張りソファーに、ガラスのローテーブル。


向かいにあるテレビの横には観葉植物が置かれていて、


窓際にあるギターは、いつかのライブで弾いているのを聞いたことがある。




洗面所のほうで髪を乾かしにいこうとする弓弦君の後ろ姿に、


「…待って、あの」


そうやって引き留めようと声をかけると、


彼はすぐに振り返って「ん?どうしたの」と目を合わせて聞いてくれる。




…私はあんなに酷いことをしたのに、


いつでも弓弦君は私の言葉を取りこぼさずに聞いていてくれる。




「…あの、私が乾かしちゃだめですか、弓弦君の髪…」


そうやって聞くと彼は目を見開いて驚いて、


「逆にやってくれるんですか…」と敬語でしどろもどろしている。



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