Filigran.
弓弦君の使うドライヤーは高性能ですごく消音だから、髪を乾かしながらもお話が出来た。
「…もう茶髪に金色が戻ってきてるね」
弓弦君にカーペットに座ってもらって、私がソファに座って上から乾かしていく。
明るい色に染めてもサラサラの髪を撫でながら、彼の髪色の遍歴が感じられた。
「そうそう、ブリーチしたから色抜けちゃうよね」
そうやって相槌を打ってくれる弓弦君は、気持ちよさそうに目を閉じてされるがままになっている。
髪の根本は少しだけ黒が見えていて、
こんなに近くに弓弦君がいて、その距離にいることを許されている奇跡に
泣きそうになってしまった。
もう殆ど髪が乾いてきたころ、ふと弓弦君が目を開いた。
「…え?」
まだ乾かしている途中なのに、彼は振り向いて私の顔を覗き込んだ。
「…やっぱり泣いてる」
そういって彼は白くて細い人差し指の側面を沿わせるように、
優しく涙を拭ってくれた。
そうやって目が合って、
彼は静かに近づいて、
私の頬に優しくキスを落とした。
「…ねぇ、何で今泣いてたのか聞いても良い?」
そこにいるんだとちゃんと意識できるくらい、至近距離で弓弦君が私に聞く。
私はそのことにまた涙が溢れて止まらない。
「…弓弦君が、私と同じ世界にいるから」
あんなに届かないと思っていた人が、
届く距離で待っていてくれるから。