Filigran.
私がそう言った途端、
彼は優しく、きつく抱きしめてくれた。
弓弦君の腕の中がこんなに温かい場所だと初めて知った。
「…やっと来れた。」
「ずっと、雪乃の世界に行きたかった」
そう言って、甘えるように私の肩に頭を押し付けるから、
あまりにも愛おしくて、その頭を優しく何度も撫でた。
「私の不安を聞いてくれますか」
そうやって言うと彼は顔を上げて、
「何でも受け止めるよ」と優しい声色で言った。
二人で並んでソファに座って、
お互いに寄りかかりながら柔らかい空気で話す。
「勘なんだけど、私の小学校からの友人が私の過去を話してないですか」
私がそう言うと弓弦君はしばし黙って、「…聞きましたね」と絞り出すように言う。
「でも、彼は雪乃のことを思って」と焦っているあたり、
二人はちゃんとした友好関係を気づいたんだと安堵する。
「…ふふ、何にも怒ってないよ。あの友人ならそうしてくれるって知ってたんで。」
そう言って、「そのことを前提にしたい話だから」と付け加える。
「弓弦君がちゃんと言葉にしてくれたとき、もしかしたら私の気持ちが消えちゃうかもしれない」
私のその言葉に酷く重みがあることは、やっぱり変わりの無いこと。
弓弦君の体も少し強張ったのが分かる。
だから、私も緊張しながら震える右手を彼の左手に重ねた。
少し驚いた彼は、それでも優しく繋いでくれた。
「…だから何度でも好きにさせて。だって」
「それがあなたの得意分野でしょ?」
あなたのそれに魅了されて、こんなになったんだから。
もし私の心が誤作動を起こしてこんなに大切な恋を忘れても、
それでもまた、好きになると思うから。
私の言葉に、大きく目を見開いた弓弦君に私は微笑んだ。
それを見て彼は繋いでいる手を解いて、
1本ずつ丁寧に指と指とを絡ませて、もう一度繋ぎ直してくれた。