大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
「すみません、質問です!」
 ハリスがここまで話したところで、手を挙げる初心者がいた。
「マンドラゴラって動けるんですか?」

 マンドラゴラは野菜ではなくれっきとした魔物だが、生き物の屍を苗床にして誕生し、ある程度の大きさに成長するまでは地中でじっとしているため、動かないイメージが強い。
 おまけに、昔からこの大陸の子供たちに大人気のベストセラー冒険小説のイメージがすっかり定着しているのだ。
 その小説に登場するマンドラゴラに関して『土から引き抜いた時、マンドラゴラの叫び声を聞くと死ぬ』という記述がある。それを信じている初心者が多いため、初心者講習会で実際は違いますよと説明しているわけだ。

 ハリスもそのことを丁寧に説明し、さらには見分け方をレクチャーした後、安全な倒し方について実演してみせることとなった。
 畝に足音を立てずに静かに近づいたハリスは、しゃがんでそーっと手を伸ばすと緑色の葉を掴んだと同時にすばやく引き抜いた。
 白くてずんぐりした大根に四肢と顔がついているような見た目のマンドラゴラは、驚いた表情で絶命している。
 マンドラゴラの意表をついて襲われる前に引っこ抜くこと。これが安全な倒し方で、実際のマンドラゴラは叫んだりはしない。

 数名の初心者は耳を塞ごうとしていた。
 いつもの初心者講習会なら、
「ほらね、叫んだりしないでしょう? ではみなさんもやってみましょう!」
となるところだが、引っこ抜いたマンドラゴラを見てハリスをはじめエミリーもリリアナも、マンドラゴラ以上に驚いた表情になってしまった。

 だからテオが、
「そんなまどろっこしいことしなくても倒せるだろ!」
と斧を振り回しながら飛び出すのを止めるのが遅れてしまったのだ。

 これが後に「初心者講習会始まって以来の大事件」と語り継がれることになる、前代未聞のトラブルの始まりだった。

< 26 / 145 >

この作品をシェア

pagetop