大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
「みなさーん、先程のテオさんの行動は、マンドラゴラには最もやってはいけない行為だとよくわかりましたね?」
 エミリーはいつものほんわかした笑顔に戻り、畑でハリスに叱られているテオを指さしている。
 さすがベテラン受付嬢なだけあって、機転の利かせ方も抜群だ。

 倒したマンドラゴラは記念品として参加者に1体ずつ配布された。そして余った分をガーデン料理の食材にする。マンドラゴラが予想外の大きさのため、かなりの量のポトフが作れそうだ。
 念のため初心者たちにはそのまま結界内にとどまってもらい、リストランテ・ガーデンから借りた大鍋をはじめとする調理道具一式と食材をセッティングし終えた。

「ハリス先生、出番ですよー」
 エミリーに呼ばれてやって来たのはハリスだけだった。
 テオはその場にとどまり大きなスコップでマンドラゴラがいた畝を掘り返している。おそらく、取りこぼしがないかよく確認しろと言われたのだろう。
 もしもちぎれた体の一部が土に残っていたらまた凶悪なマンドラゴラが育ってしまう恐れがあるため、これは大事な作業だ。

 結界の中にいるコハクは持ち前の人懐っこさを発揮してすっかり初心者たちの人気者となり、もふもふされまくっている。
 コハクはそのまま初心者たちに任せることにして、リリアナはハリスを手伝いはじめた。

 今回はガーデン料理の実演ということで、マンドラゴラのポトフを作る。
 リリアナが魔法で木桶に水をたっぷり入れマンドラゴラについた土を洗い落としている間に、ハリスは先日仕込んだカリュドールのパンチェッタを取り出した。
 すっかり乾燥して熟成したパンチェッタは、赤黒いガーネットのような光沢を帯びている。
 この日のためにハリスの弟子たちが布を何度も取り換え、干したり塩抜きしたりと手間暇かけて熟成を手伝ってくれたおかげで理想的な仕上がりだ。
 
 ハリスはそれを持ち上げて初心者たちにカリュドールの説明をした後、手早くブロック状に刻んで火にかけた鍋へ投入していった。
 鍋底でジュワジュワと音を立てながら脂がしみ出てくると、スパイスの香りと深みを増したカリュドールの肉の香りが漂い始める。
 ポトフじゃなくていいから、いますぐそれを食べさせて!と言いたくなる衝動を振り払うように、リリアナはマンドラゴラをごしごし洗った。

 滋養強壮効果の高い高級薬剤として重宝されているマンドラゴラだが、一般に流通している乾燥品の場合、葉の部分はチリチリに枯れて落ちてしまうため、緑色の葉を食べられるのはガーデンの中だけだ。
 ガーデン料理としてマンドラゴラの体の部分を食べると全てのステータスが向上するというバフが付与されるのだが、葉の部分は吸収力を高める働きがあるためさらに飛躍的にステータスが向上することになる。

 ハリスはリリアナから洗い終えたマンドラゴラを受け取ると、葉も体も全て余すことなくサクサクと切って鍋に投入していった。
 
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