大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
 コハクに案内されてやって来たのは、街のはずれにある倉庫が建ち並ぶ場所だった。
 倉庫の横には、畑が広がっている。
「ソバの倉庫だな。ちょうど種まきが終わったところだから、種用の倉庫は(から)でしかも人が来ないってことか」
 ハリスが呟きながら、小屋の外に置かれていた縄を手に取った。
 
 コハクが一棟の倉庫の前で立ち止まった。
 ハリスが勢いよくドアを開けると中には男が4人いて、突然の乱入者に驚いた表情を見せた。そのうちのひとりがブルーノ会長、その隣が商会の職員だろうか、金貨がぎっしり入った木箱を持っている。それに向かい合って初老の男と小柄な冒険者風の恰好をした男がいる。
「あなたたちが黒幕ねっ!」
 結果的に探偵の真似事ができたことに満足しつつ、男たちが抵抗する前にリリアナが拘束魔法で動きを封じた。
 
 ハリスが男たちを縄で縛っていく間、リリアナは両手を広げて魔法を維持する。
 人の動きを封じる拘束魔法は上級魔法で難易度が高い。しかもそれを4人まとめてとなると、難易度はさらに跳ね上がり、魔力の消費量も多い。
 どうにか集中を切らさずに拘束を保ち、ハリスがブルーノ会長以外の3人を縛り終えた時だった。

 視界の端でなにかが動いている気がしたリリアナは、好奇心に抗い切れずにチラリと横を向いた。
 そこにいたのは青黒い舌をチロチロ動かす大きな緑色のトカゲ。首には赤い石のついたベルトが巻かれているが、倉庫が薄暗いため本物か偽物かわからない。
 トカゲは檻には入っておらず大きな木箱の上に乗っていて、のそりと前肢を動かしリリアナに一歩近づこうとした。
 それにギョッとして、魔法が解けてしまった。

 ブルーノ会長は拘束が解けると素早くトカゲに駆け寄り、トカゲの首に巻いてある首輪を外す。
「さあ、いけ! ドラゴン!」
 ブルーの会長の得意げな声が倉庫に響き渡り、ハリスとリリアナが同時に息をのんだ。

「…………」
 しかし何も起こらない。
 大きなトカゲは、トカゲのままだ。
 つまり首輪は偽物で、このトカゲは本当にただの大トカゲだったということだ。

 リリアナはそれにホッと胸をなでおろした。
 首輪が外された時にハリスとリリアナが同時に驚いたのは、トカゲがドラゴンに変身することではなく、死んでしまうと思ったからだ。
 もしも本物の首輪をガーデン以外の場所で無理に外せば、首輪の呪いが発動してペットはその場で絶命する――リリアナたちがその説明を受けたのは、コハクをペット登録した時だからまだ記憶に新しい。
 魔物の討伐ランクで最高難易度に位置するドラゴンに、そんな形で死んでほしくない。

「どうした! なんでなにも起こらないんだ!」
 まだトカゲがドラゴンだと信じている様子のブルーノ会長を、ハリスが手早く縛り上げる。
 
 偽物の首輪とトカゲ、木箱に入った金貨、録音石に残る会話の記録。
 証拠は全て出揃った。
 リリアナは急いで警備隊員を呼びに戻り、4人の男たちは連行されていった。
 
「お腹空いた……」
 リリアナがお腹をさする。
「最後にソバの実亭でたらふく食って帰るか」
「やった!」
 ハリスの提案にリリアナは両手をバンザイしながら喜んだ。
 
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