大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
「じゃあ、あそこに浮いてるコハクが折り返し地点で、先にここまで戻ってきたほうが勝ちだ。リリアナは魔法の使用は禁止。いいな?」
 審判をかって出たハリスがシンプルなルールを考えた。
 コハクはすでに沖でプカプカ浮いている。

「やってやろうじゃねーか」
「魔法を使わなくっても負けるわけないわ」
 ハリスの号令でリリアナとテオのふたりが海に向かって駆け出した。

 砂浜から海の深さが膝ぐらいまでの間はただ走るだけでいいため、テオが有利だ。そこはリリアナも織り込み済みでテオのリードを許しても余裕でテオの背中を追いかける。
 泳ぎ始めたらすぐに追い抜ける。
 そう思っていたリリアナは、少し泳いだところでおや?と思った。
 食事の前はちっとも前に進まず、コハクにまでおちょくられていたテオとの距離がなかなか縮まらない。

 なんで!?
 リリアナは焦りながら本気で泳ぎ始める。
 テオの泳ぎが急に上達した要因として考えられる可能性はふたつ。リリアナが調理をしている間にコツを掴んで覚醒したか、クラーケンのバフがリリアナよりもよく効いているかだ。もしかすると、その両方が当てはまっているのかもしれない。

 クラーケンのバフは、速く泳げるようになることだ。
 前に進まないんじゃ加速バフがついたところで無意味でしょ。だからバフがつくことでなおさら、わたしのほうが断然有利よっ!
 リリアナのその考えがどうやら誤算だったらしい。

 懸命に手足を動かし、コハクの待つ折り返し地点で一旦テオに追いついたものの、ここで運悪く高波に襲われた。
 テオよりも体重の軽いリリアナの方がその波の影響を大きく受けてしまい、また後れを取る。
 結局その差が縮まらないまま、先にゴールしたのはテオだった。
 
「どうだ!」
 テオが飛び上がってはしゃいでいる。
「どうなってんのよ。ついさっきまで泳げなかったくせに!」
 全力を出したリリアナは肩で大きく息をしているが、テオの体力はこれぐらいではまったく消耗しないらしい。
「さあな。コツを掴んだってことかな」
 ドヤ顔のテオを見て、今度はリリアナのほうがおもしろくない気持ちになった。
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