大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
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 テオは右肩を脱臼していた。
 水の抵抗に逆らって、リリアナを丸飲みできるほど大きな魚をぶん投げたらしい。ウォーリアとはそんな馬鹿力を発揮できるのかと感心してしまう。
 ハリスがそれを上手にはめて治したが、しばらく動かさないほうがいい。三角巾のかわりに調理用のさらし布で右腕を固定した。

「テオ、ごめんね。魔物が出る海域なんだからもっと冷静でいなきゃいけなかったのに、変な意地をはって反省してる。助けてくれてありがとう。借りはいつか倍にして返すからね」
 リリアナが神妙な面持ちでテオにお礼を言う。
 あの場に居たのがテオでなければ、海王魚はどんどん沖へと逃げていき、その間に胃の中で消化されていただろう。
 思い返すとゾッとする。
 
「いや、それを言うならいつも美味いもん食わせてもらってるから、これでチャラだろ」
 テオがやけに素直でなんだか落ち着かなくなるリリアナだ。

「リリアナ、ハーブを採取してきてくれないか」
 海王魚の身を薄くそぎ切りにして皿に並べているハリスから声がかかる。
 カルパッチョを作るつもりらしい。
 断面はみずみずしく、キラキラ輝いている。リリアナは思わず皿に手を伸ばし、一切れ味見させてもらった。
 コリコリした食感の淡白な白身だ。

 オカヒジキと海王魚ではどちらも淡白すぎる。しかし食感を楽しめそうだからオカヒジキも採取しておくことにした。
 もう少し足を延ばして砂浜ではない土の部分へ行くと、地際からまっすぐに細長い葉を茂らせる植物を見つけた。一見、雑草のように見えるがこれはきっとハーブだ。
 リリアナが葉先を手でちぎって匂いを嗅いでみると、レモンのような爽やかな香りがする。
「これだわ!」
 海王魚のカルパッチョに合うに違いない。
 そのすぐ近くには、丸い葉でまろやかな甘みのあるハーブが生えていた。
 まるでここでカルパッチョを食べろと言わんばかりの気の利いたラインナップに喜びながらあれこれ摘んでハリスに届けた。

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