隠れ雨
心雨
隠れ雨
心雨
二年前に見たこの一粒の雨。
キラキラしていた私が映ってた。
窓ガラスに手をあててみて、ひやっとした指先。
少し寒気がした夜だった。
淋しさだったのだろうか、嬉しさだったのだろうか。
今思えば、あれは多分ただの優越感。
久々にかかってきた君からの電話。
嬉しすぎて、声が裏返ったのを憶えてる。
窓ガラスは冷たくて。
ずっと見つめていたお店の看板。
暖かそうなマフラーを巻いているカップル。
冷えた指先を唇にあてる。
息だけが温める。
急に鳴り始めたバイクの警報。
驚いた私は手をまた、窓ガラスにあてた。
まだ流れないこの一粒の雨。
キラキラしていた私が映ってた。
お兄ちゃんの部屋から聞こえてくる大量音のヘビメタ。
車のブレーキの音さえ聞こえなかった。
冷えた指先を今度は首にあてる。
それから頬。
目を少しだけつぶってみる。
風で揺れる木の葉、いまにも落ちそう。
チカチカと光る青いダイオード。
タクシーが止まる。
あの日は確か十二月。
夜の九時だったはず。
二度目にかかってきた電話は男友達からだった。
「明日までの宿題ある?」
毎日のことだった。
そして私は毎日のことのように、
「ないよ」
ある程度野球のことを話して電話を切った。
指先が冷たい。
もう少しだけ、我慢してみよう。
宣伝ようのトラック二台が光る。
二センチ流れたこの一粒の雨。
キラキラしていた私も、いつしか消えていた。
君からの電話。
「もしもし?」
それは、今年も同じ。