愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「あんたの荷物なんていらないから、さっさと持っていってちょうだい。顔も見たくないわ」

「もうやめないか。お前がやえの金を使い込むからこんなことになったんだろう」

「なによ。あなただってやえをいいように使っていたくせに。私だけが悪いように言わないでちょうだい」

叔父さんと叔母さんの小競り合いは聞くに堪えなかった。どちらも責任を押し付け合い、自分は悪くないと主張する。私にとってみたら、どちらが悪いなんて関係ない。この家で私の味方は誰一人いなかったのだから。

二人の会話はムカムカと嫌な感情が心を蝕んでいくようで聞きたくない。智光さんも眉を寄せ、石井さんに至っては呆れたため息をついている。

だけど以前と違うこともある。
それは私の心が少し前向きであること。
智光さんが隣にいること。
石井さんも味方でいてくれること。

心強さは勇気になる。
いつまでも弱い私じゃないんだから。

私は叔母さん叔父さんに向き合う。
何の用だと言わんばかりの視線を向けられて少し怯みそうになったけれどぐっと拳を握った。

「叔母さん、ここでの生活はとても苦しかったです。お金を取られたことも悲しかった。でもひとつだけよかったこともあります。叔母さんに家事を叩き込まれたことで、一人でも生きていける気がしています。それから叔父さん、私がここに住んでいるときに、そうやって叔母さんに言ってほしかったです。かばってほしかった……。私はもう結婚したので、家を出ます。今まで荷物を置いてくださってありがとうございました」

すうっと一息で言った。
少し声が震えてしまったけれど、言いたいことが言えた気がした。本当はもっと文句や恨み節があったのかもしれない。けれど自分の中で燻っていた感情を簡潔に吐き出すことができて、妙にスッキリしている。

叔父さんと叔母さんは何も言わなかった。
どんな酷い言葉がかえってくるのかと身構えていたけれど、ふいと目をそらされただけだった。
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