愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「やえさんも言いたいこと言えたみたいだし、二人は荷物の整理をしてきて。俺はもう少しやることあるから。……さて、先日のお話の続きをしましょうか」

石井さんが悪魔のような笑みを向けると、叔父さんと叔母さんが少し小さくなったように見えた。
どうやら石井さんの弁護士としての効力は絶大のようだ。

「あとは石井に任せておこう」

「はい」

私は一礼してからリビングを出た。そのまま智光さんを奥の部屋に案内する。

「ここが、私の部屋です」

奥の北側の小さな部屋。少し薄暗く狭い四畳半の畳部屋に、学習机がどんと場所を取っている。唯一持ち込んだ家具だ。そして空いたスペースに布団を敷いて寝ていた。他の荷物は小さな押し入れにすべて入っている。

「こんな小さな部屋にやえはいたのか?」

「そうですけど、でもこの小ささが落ち着くというか。ここだけが私の安らげる場所だったんです」

今となってはそんなもの遠い昔のように思えるけれど。だけどこの部屋だけはプライベートスペースで、何年もの間私を守ってくれた。大切な場所。

「そうか。じゃあこの学習机も持っていくか?」

一瞬心が揺れたけれど、私は首を横に振った。
愛着があって思い入れの強い机だけど、逆に嫌なことも思い出してしまう。過去はここに置いていく。私は前に進みたいから。

そんな風に思える自分に少し驚いた。
後ろ暗い私はどこにもいない。
確実に前を向けている。
それもこれも智光さんのおかげだ。
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