愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
智光さんの大きな手が私の頭を優しく撫でる。
わかっているよと言ってくれているみたいで安心する。

「荷物をまとめようか。業者を手配してあるから、今呼ぶ」

「えっ、業者さん?」

そんな大げさなと思ったけれど、智光さんはすぐにどこかに連絡を入れた。たいして荷物もないのになんだか申し訳ないし、そこまで考えてくれていたことに驚いた。何から何まで智光さんにお世話になっている。

ひとまず押入れを開けて持ち出すものを取り出す。といってもケースに入っているものばかりなので、それをそのまま持っていけばいいだけなのだが。

「それにしても、やえは立派だな」

「え? 何がですか?」

「きちんと挨拶をしていた。俺の出る幕はなかったな」

智光さんはくっと目尻を落とす。
出る幕がなかっただなんて、とんでもない。智光さんが隣でずっと支えてくれていたから勇気が出た。私ひとりじゃ何もできなかった。

今まで叔父さん叔母さんに意見したことなんてなかったもの。言ってもどうせ何も変わらない、現実から目を背けて波風を立てないようにしていた。

今こうして私が幸せを感じられるのも、全部全部智光さんのおかげ。

「ありがとうございます。智光さんのおかげです」

「今日でやっと、しがらみから解放されるな。石井の話も今日でカタがつくと言っていたし」

「あ……そう、ですね」

ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
そうだ。これで解決なら、私は身の振り方をきちんと考えなくてはいけないんだった。

――離婚してもいい

あの言葉がよみがえる。
離婚するのが智光さんの幸せ?
私はどうしたらいい?
どうしたい?

「智光さん、私――」

口を開いたところで智光さんの携帯電話が鳴った。

「あ、電話どうぞ」

「すまない」

断りが入って智光さんが電話に出ると、業者さんが着いたという連絡だった。
< 112 / 143 >

この作品をシェア

pagetop