愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

「やえ、大丈夫だったか?」

「はい。智光さんは?」

「問題ない。石井も大丈夫か?」

「やえさんのおかげで助かりましたよ。それにしても罪を重ねるとは大バカ者ですね。執行猶予すら付けられないほどにしてやればよかった」

石井さんはため息をつく。口調は柔らかいが言葉は辛辣だ。
業者さんたちに捕らえられているお兄さんはときどき悪態をつきながらもがいている。

そうこうしているうちにパトカーのサイレンが聞こえてきた。ようやくほうっと息を吐き出す。

「警察、来たみたいですね。私、玄関まで出てきます」

そう告げて部屋を出ようとしたのだけど――。

「やえ! 危ない!」

背中にドンっという衝撃が加わり、私は前のめりに倒れこんだ。突然のことに思考がついていかない。「ぐっ」という呻き声にはっと我に返る。

慌てて体を起こせば、私にかぶさるように智光さんがいる。そしてその後ろには顔を真っ赤にしてゴルフクラブを握っている叔母さん。さらにそれを止めようと叔母さんを羽交い絞めにしている石井さん。

「……大丈夫か、やえ」

「え……あ……はい」

背中に衝撃があったものの、床に倒れ込んだときに手を擦っただけで、他はなんともない。

「……そうか、よかった」

「はい……とっ、智光さん血がっ!」

智光さんの頭から血がぽたりと垂れる。

「……問題ない」

「でもっ」

私の背中の衝撃は智光さんが私をかばったからで。叔母さんが振り上げたゴルフクラブは智光さんの頭に直撃したようだ。

「……だからどうして罪を重ねるかな」

石井さんの苦々しいつぶやきと警察が入ってくるのは同時だった。
間もなく彼らは連行され、事態はようやく収拾した。

が――。

ドサッ

それはもう一瞬の出来事で、何が起きたのか全くわからなかった。息をするのを忘れて、反射的に伸ばした手は智光さんを掠めることもなく、私の目の前で智光さんは倒れた。

「智光さん? ……智光さん! 智光さん!」

呼びかけにもまったく反応しない。
本当に、何が起きたのか理解できなかった。
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