愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
翌日も智光さんは目を覚ますことはなく、沈む気持ちをなんとか奮い立たせて智光さんの看病をした。

連絡が伝わったのだろう、久賀産業の社員さんたちが入れ替わり立ち代わり何人もお見舞いに来た。夕方、敦子さんと田辺さん、安川さんも病室に顔を出してくれる。

「やえちゃん、ちゃんと食べてる? ほら、これ食べてしっかりなさい」

敦子さんはたくさんの食べ物や飲み物が入った袋をドンっとテーブルに置いた。そういえば何も食べていないし、水分もあまりとっていないことに気づく。

「……敦子さん」

顔を見ただけで涙がこぼれそうになる。敦子さんはぎゅっと私の手を握り、優しく抱きしめてくれた。何も言わないけれど伝わってくる敦子さんの温かさ。背中を何度も擦ってくれ、私を落ち着かせてくれる。

「田辺さんも安川さんも、ありがとうございます」

「この前社長に説教しすぎたから、いじけてるのかもな」

「いや、説教が足りないだろ。こんなにやえちゃんを泣かせてるんだから。起きたらまた説教してやるよ」

いつもの調子で軽口を叩くので、少し気が楽になる。

「ふふっ。そんなにお説教されたら智光さんが泣いちゃうかもです」

目尻を拭いながら微笑めば、田辺さんに頭をポンポンされ、安川さんはニッコリと目を細める。

おかあさんと同じで、私も先代の社長が倒れた時のことを思い出した。あのときもたくさんの社員さんが入れ替わり立ち代わりお見舞いに来ていて、とても慕われている社長だと思ったけれど。

智光さんはやっぱり先代の社長に似ている。みんなに慕われて、久賀産業にとってなくてはならない存在。

「やえちゃん、仕事のことは気にしなくていいから。自分が納得するまでついててあげなさいね」

敦子さんの言葉に、田辺さん安川さんもうんうんと首を縦に振る。私は小さく「はい」と返事をした。私の申し訳ない気持ちを汲み取ってくれ、ありがたくてたまらなかった。

「困ったことがあったらいつでも連絡して」

敦子さんはもう一度私を抱きしめると、騒がしい田辺さんと安川さんを引っ張って帰っていった。
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