愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「智光さん、皆さん心配していますよ。早く起きてください」

呼びかけてもやはり反応はない。このまま目を覚まさなかったらどうしよう。私のせいで智光さんが死んでしまったら――。

不吉な予感に思考が持っていかれそうになった時、コンコンというノックに顔を上げた。慌てて涙をぬぐい「はい」と返事する。

カラカラと扉を開けて入ってきたのは、スーツ姿の石井さんだった。私と視線が交わると、ほんのり目尻を落とす。

「やえさん、こんにちは。久賀はどう?」

「石井さん……」

私は首を横に振る。智光さんが倒れたとき、一番冷静に動いてくれたのは石井さんだった。私は気が動転して泣き叫んでいたのだ。

「あの……いろいろとご迷惑をおかけして……」

頭を下げればすっと手で制される。

「この度は本当に申し訳なかったと思っています。弁護士として依頼人を危険にさらしてしまったこと、本当にお詫びしたい」

「そ、そんな。どうか頭を上げてください」

慌てて駆け寄れば、石井さんは困ったように眉を下げた。そして智光さんを見る。ずっと眠ったままの智光さん。頭には包帯が巻かれているけれど、とても綺麗な顔をしている。ただいつものように眠っているだけみたい。なのに起きてくれない。

しばらく無言のまま、静かに時が流れた。
やがて石井さんが小さく口を開く。

「やえさん、久賀のこと好きになってくれてありがとう。やえさんと結婚したって聞いて、俺、本当に嬉しかったんだ」

「石井さんは……その、智光さんと仲良しなんですか? あ、ごめんなさい。あまり交友関係を知らなくて」

「久賀からあまりそういう話は聞かない?」

「……はい」

思えば智光さんのプライベートな話って聞いたことがない。

お風呂上りが色気だだもれだとか朝が苦手だとか、そういうことは少しずつわかってきたけど。それだけでも私は嬉しいって思っていたけれど、そんな話をされるともっと智光さんのこと知りたいって思ってしまう。
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