愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「ごめん、やえさん。泣かせるつもりはなくて……」

私は首を横に振る。
感情が収まりそうにない。
智光さんが愛しいという想いがあふれ出てくる。

「石井さん、本当にありがとうございます。私、智光さんのこと全然わかっていなかったです。自分のことばかりで……こんなに愛してくれていただなんて……思わなくて……」

「それは仕方ないよ。やえさんも大変だっただろうし、それに久賀って自分の感情を出すの下手くそだよね」

石井さんは困ったように笑う。

確かにそうかもしれないけれど、思い返せばどれもこれも私を大切にしてくれている場面しか思い出せなくて……。

結局私が、私なんかって卑下して智光さんをちゃんと見ようとしなかった。いつだって悪い方にしか考えられなかった私の責任だ。

「だけどさ、何度も言うようだけど、久賀のこと受け入れてくれる女性が現れて、本当に良かったと思ってる」

「そんな、大袈裟です。智光さんは素敵な方ですから、私じゃなくたって、皆さん智光さんのことを放ってはおかないでしょうし……」

「確かに久賀はいいやつなんだけどさ、俺が言いたいのはそういう内面のことじゃなくて、ほら、外見の方っていうか」

石井さんの言っている意味が分からなくて私は首を傾げる。智光さんの外見を受け入れるかどうかなんて、むしろこんな綺麗な男性、十中八九受け入れると思うんだけど。

「どういうことですか?」

「ん? ほら、久賀の胸のアザ、気持ち悪いって前に付き合ってた彼女にこっぴどく振られたらしくて――」

「アザ? 彼女?」

「って、ごめん。俺しゃべりすぎた。彼女とか関係ないから。過去のことをついベラベラと。大丈夫、安心して。今はこいつ、やえさんしか見えてないから。っていうか早く目を覚ませよコノヤロー」

私がよっぽど怪訝な顔をしてしまったのか、石井さんは慌てて取り繕うように早口でまくし立てる。

「アザって、あれのことですよね。知ってます」

「あ、うん。だよね。よかった」

石井さんは胸に手を当ててほうっと息を吐き出した。どうやらよっぽど重要なことを口走ったらしい。

智光さんの過去の恋愛も気にならないと言えば嘘になるけれど、それよりもアザの方が気になる。
だって石井さんが言っていること、本当は何のことだかわからないけど、ふと思い当たる節があったからだ。

私が智光さんのパジャマのボタンに手をかけたとき、すっと止められたのだ。あのときは朝で時間がないから、わきまえてくれたのだと思ったけれど。

もしかして見られたくなかった……とか?

考えすぎだろうか。
智光さんが私のことを好きかもしれないなどと思い始めてしまっているから、調子に乗ってそんな考えになるのだろうか。
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