愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
8.あふれる想い
✳✳✳

桜の花びらが舞う。
柔らかな風に乗ってひらひらと、まるで雪のように静かに降り積もる。

俺は手を伸ばしたが花びらはするりと手のひらをすり抜けた。

「幸せが幾重にも訪れるように」

一人の男性が小さな子どもを高く掲げた。まだ一歳くらいであろうその子は、ふええと泣き出す。

「もう、高く抱っこしすぎよ。やえが怖がってるじゃない」

男性の妻だろうか、咎めるその声は思ったよりも優しい。

「ほら、見てごらん。これが八重桜よ。やえと同じ名前。綺麗ね」

「たーた」

何と言ったのだろう。まだ発語が未発達でも、彼女が声を発するたびに三人は幸せそうに笑う。理想的な家族像だ。
突然やえはよちよちと歩き出す。まだ足元がおぼつかない。今にも転んでしまいそうだ。

「やえ、どこ行くの?」

両親に呼ばれても、やえは振り向くことなくこちらにまっすぐ進んでくる。俺の前まで来ると、おもむろにズボンをぎゅっと握った。

「えっ……と、……どうした?」

やえと呼ばれているこの子はあの『やえ』なのだろうか。
やえは大きくくりっとした瞳で俺を見る。

「たーた」

「え?」

不思議に思っていると目の前で風が巻き上がる。桜の花びらと共にぶわっと視界が揺れ、思わず目を閉じた。
風がやみ、再び目を開ける。
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