愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

先ほどまで外にいたのに、どういうわけか室内に切り替わっている。

「……ここは?」

見覚えがある。小さな畳の部屋に大きな学習机。隅には布団が畳んで置いてある。
机には突っ伏して泣いている高校生くらいの女の子が一人。

「やえ……」

そうだ、これはやえだ。
ここはやえの引き取られた先の家で間違いない。泣いているのは悲しいからか、寂しいからか、はたまた辛いからか。

「やえ」

声をかけても顔を上げることはない。そっと肩に触れてみるも、どういうわけかすっとすり抜けてしまった。

なんだろうこれは。
俺は幻覚でも見ているのだろうか。

「智光くん」

ふいに呼ばれて振り向く。
先ほどの桜の木の下で見た夫婦がそこにいた。とても悲しそうな顔でやえを見ている。

「……やえさんのご両親ですか?」

聞けば、コクリと頷く。やえの両親も、やえに触れることも声が届くこともないようだ。

「やえを君に任せてもいいだろうか」

「私たちはもうやえを守ることができないから。智光くんにお願いしたいの」

「任せる……」

どういうわけか頭がしっかり働かない。

「えっと……俺は……」

俺はどうしたんだっけ?

「やえと結婚してくれてありがとう」

「結婚……」

ふと視線を下げる。と、左手の薬指にはまるプラチナの指輪。じわりじわりと頭に情報が入ってくる。

そうだった、俺は死のうとしていたやえと無理やり結婚して、助けたことをいいことに俺のものにしようとして――。
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