愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「やえのご両親に会った」
「え……」
「……たぶん」
うすぼんやりとした記憶。夢だったのだろうか。それとも本当にやえのご両親が会いに来てくれたのだろうか。どちらにせよ忘れないうちに話しておかないと思ったのだが、しっかりと思い出せない。
「智光、あなたやえちゃんのご両親にちゃんと挨拶したんでしょうね?」
母に言われてはっとなる。そういえばちゃんとした挨拶なんてしなかったな。懺悔した記憶はうっすらあるのだが……。
「……してない」
ぼそりと呟けば母はたいそう呆れた顔をし、父はおかしそうに笑う。「そういうところよ、お父さん」なんてぴしゃりと咎められているし。礼儀にかけていたと思うけど、そんな雰囲気でもなかったような気がするし、まあ、後悔しても後の祭りなのだが。
「智光さん、私の父と母は元気でしたか?」
「……ああ、やえのことを心配していた」
……と思う。ぼんやりとした記憶しか話せなくて申し訳ないけれど、それでもやえは涙を浮かべながら微笑んだ。
八重桜のようにこぼれ落ちそうな笑顔に息をのむ。
なんて綺麗なんだろうと、俺はやえから視線を外せなくなった。
――君たち、幸せになれよ
ふと頭の中を、そんな言葉が駆け巡っていった。