愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
智光さんはおもむろにTシャツを脱ぐ。
その姿に思わずあっと息をのんだ。
肌が露わになるにつれて見えてくる赤紫色の大きなアザ。単純に色が広がっているところもあれば、帯状疱疹のようにブツブツと斑になっているところもあり、胸からお腹にかけてかなり広範囲に広がっている。
「これは単純性血管腫といって生まれつきなんだが、……気持ち悪いだろう?」
智光さんは申し訳なさそうに私を窺う。
ふと石井さんの話がよみがえった。
――久賀の胸のアザ、気持ち悪いって前に付き合ってた彼女にこっぴどく振られたらしくて
ああそうか、と納得した。
だから智光さんはあの時シャツのボタンを外すのを止めたのだ。見られたときにどう思われるのか、怖かったのだろうか。もしかしたらずっと心の傷になっていたのかもしれない。
そんなこと、まったく知らなかった。
一緒に住んでいたのに、何ひとつ智光さんのことをわかっていなかった。知ろうとしていなかった。
結局私は自分のことばかり考えていた。自分がつらいばかりに、私以外の人はみんな悩みなんてないだろう幸せなんだろうって、そんな風に漠然と思っていたのかもしれない。
だけど違うんだ。誰にだって悩みはあるし、それが私にとったらどんなにちっぽけなことでも、彼にとったらとても重要なことで……。
「触ったら痛いですか?」
「いや、見た目だけでそういうのはまったく――」
私は智光さんのアザにそっと触れる。ビクリと智光さんが揺れたけれど、私は撫でるように触れた。ゴツゴツしていたりブツブツしていたり、盛り上がっていたり、不思議な感覚。
すべてが愛おしいと思った。
これが智光さんなのだから、他になにも感じない。
ただただ愛おしい。
愛おしい他に、何があるというの。