愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

『一人暮らしをするだって? バカなこと抜かすんじゃないわよ。あんたをきちんと高校まで行かせてやったのに、この恩知らずが』

叔母さんに叱責された光景がフラッシュバックして胸が締めつけられる。

出て行くのはこれ以上この家に迷惑をかけないようにするため。
居候の私がいない方がいいでしょう?
目障りでしょう?

『やえ!』

叔母さんが私を呼ぶ。
その声が大嫌い。
また、何を言われるんだろう。

逃げたい……逃げたい……逃げたい……。
どこか遠くへ。
ずっとずっと遠くへ。

そう思うのに……。

私をここに繋ぎ止めるもの。
それは今の職場、久賀産業。
遠くへ逃げたら久賀産業にもいられなくなるということ。

私にとって久賀産業は唯一の心安らげる場所。
優しい社長がいて、お母さんみたいな敦子さんがいて、営業の田辺さんも楽しい人で、皆が朗らかで、私が私でいられる場所。
それを手放すことができなくて……。

そうしてズルズルと月日が経ってしまっている。

毎月貯金している一万円。
目標は百万円だからあと一年ちょっと。

百万円貯まったら、絶対この家を出るんだ。
ちゃんと自立して、お父さんとお母さんのお仏壇も買って、家事のことを気にせずお友達とめいいっぱい遊ぶの。
飲み会にも参加してお酒も飲んでみたいし、夜の街を歩いてみたい。

やってみたいことはたくさんある。
その希望を糧に、今を頑張っている。
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