愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「ただいま帰りました」

リビングに顔を出せば、お兄さんがひとり、ソファに寝そべりながらテレビを見ていた。

いつもそこにいる叔父さんと叔母さんの姿が見当たらない。きちんと挨拶をしないとどやされるのがわかっているので私は各部屋をノックして回ったけれど、叔父さんと叔母さんはどこにもいなかった。

「……あの、叔父さんと叔母さんはどこに?」

もう一度リビングに顔を出しお兄さんに尋ねてみる。
お兄さんはこちらに顔を向けることもなく、「ああ、あいつらは旅行だと」と興味なさげに言い放った。

「旅行ですか……」

私は買い物袋を握りしめる。

じゃあ今日はお兄さんの夕飯だけ作ればいいということだろうか。特売のブリは冷凍にでもしておいて後日使おうかと考えながらキッチンへ向かった。

ひとまず買ってきた食材を片づけて……と作業をしていると、「なあ」といつの間にかお兄さんが後ろに立っていた。

お兄さんは私よりいくつか年上で、髪は少し長くてボサボサ。目が隠れそうなほど長い前髪の隙間からギョロリとした目が見える。

ほとんど話をしたことがないので、仕事をしているのかしていないのかは知らない。いつもは部屋にこもっていて夕飯のときだけ顔を見る。

だからお兄さんから話しかけてくるのは珍しい。
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