愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

母から連絡を受けて病院に駆けつけた俺の目に飛び込んできたのは、久賀産業とロゴの入った作業着を着た社員数名。

オロオロと不安そうな空気が漂う中、凛とした声が廊下に響く。

「皆さん、落ち着きましょう。社長はきっと大丈夫ですから」

誰よりも若いのに誰よりもしっかりしていて、こんな若い子もうちの会社で働いているのかと驚いた。

「すみません、久賀の家族の者です。この度はご迷惑をおかけしてすみません」

声をかければ、彼女はブンブンと首を横に大きく振る。

「迷惑だなんて……社長は今検査中で。仕事中に突然胸が痛いとおっしゃられて……」

状況を的確に伝えてくれる彼女はとても気丈だった。俺よりもずいぶん若そうに見えるのに、妙に落ち着き払っている。

そんな彼女に触れて、動揺していた心が嘘のように静まっていくのを感じた。

あとで聞いた話によると、救急車に同乗してくれたのも彼女だったらしい。
名前を、幸山やえと言った。

その後の手続きも幸山さんが率先して動いてくれ、そのおかげで何も困ることはなかった。
父も一命を取り留め安堵するとともに、幸山さんには本当に頭が下がる思いだった。
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