愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
一命を取りとめた父だったが入院を余儀なくされた。仕事復帰のめどは立たず、母もどうしたらいいかわからなかったようだ。

そんな中、久賀産業の社員たちは毎日入れ代わり立ち代わり父の見舞いに来る。
意外と慕われている様子に驚いた。

『智光、人を大事にしなさい』

昔からの父の教えがよみがえる。まさか今になってこんなところでその言葉を実感するとは思わなかった。
これは父が人を大事にしてきた結果なのだと。

「社長、お加減いかがですか?」

ある日、病室からもれてきた可愛らしい声に、俺は足を止めた。
入口からそうっと中を覗き込めば、父が病院に運ばれた日、気丈にふるまっていたあの子がニコニコと父に話しかけている。

「仕事で何か困っていることはないかい?」

「はい、大丈夫です。あえて言うなら社長がいなくて寂しいことでしょうか」

「嬉しいことを言ってくれるね、やえちゃんは。私に娘がいたらこんな感じかなぁ」

「ふふっ。社長には立派な息子さんがいるでしょう」

「そうなんだよ。我が息子ながら立派すぎて困るよね」

「自慢の息子さんですね」

穏やかな笑い声が耳に届く。
そのあたたかな空気がなぜだかとても羨ましくて、胸が苦しくなった。

俺は好きな仕事に就いているけれど、会社でこんな風に笑い合ったりしているだろうか。もっと殺伐として、競い合って、出世することを考えて……。

それが当たり前だと思っていたけれど、父が作りあげた会社は全然違うのだ。

皆が笑っていて、人情に溢れていて、そしてあたたかい。そんな場所をこれからも残していきたい。この人たちの笑顔を守りたい。

そう考えたとき、俺の中で何かを決断させた。
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