愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

俺は久賀産業をなめていた。
企業は大きければいい、知名度が高いほどいい、そんな固定観念を大きく覆された気がした。

こんな心染みる場所で俺も仕事をしたい。
父の意思を継ぎたい。
そう思ってしまったのだ。

「会社を継ぎたい」

そう告げたときの父の嬉しそうな顔は忘れられない。言わないだけで、本音は継いでほしかったのだ、きっと。俺は一人息子だから。

「簡単じゃないぞ」

「わかってる」

畑違いなんだ。だから一から学び一からすべてを築いていかなくてはいけない。
それでも、俺の意志は固かった。

家を継ぐと言ったらすぐに恋人にフラれた。

「ちょうどいい機会よ。私たち、別れましょう」

「ああ、わかった」

何がちょうどいい機会だ。前々からあることで揉めて少しギスギスしていたから、別れたそうにしているのは知っていた。それに、俺から大企業の肩書が無くなったのが決定打になったのだろう。

「町工場の社長の息子」なんていう肩書は、所詮大企業には敵わない、その程度のものだったのだ。

要するに、俺が今まで避けてきた期待やプレッシャーは、そんな大したものじゃなかったというわけだ。自分が一番その肩書きに溺れて意識して、そんなバカげた浅はかな考えにもようやく気づけた。
今さらかもしれないが。
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