愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】

そんなわけで社長になったのだが、当然風当たりは強かった。大企業で働いていたとはいえ、そんなのたかが数年、しれている。そんなひよっこが突然社長になったのだ、不信感も強いだろう。

俺は父とは違い愛想もよくないしどちらかというと大人しいタイプだ。だから誤解されやすいというかなんというか……。

それでも社員全員と何度も対話を重ね、じっくりと人と向き合う。父の教えは最大限守った。そのうえで町工場ならではの古い制度や時代に即していないものなどを止めていく。大企業で培ったノウハウを最大限駆使し、社内の改善を図っていった。

事務所も建て替え工場も新しい機械を入れた。営業にも力を入れ、今まで久賀産業になかった新しい仕事も生み出す。業績は上向きだったけれど、案の定反発もあった。

そんな中でただ一人、出会った時からずっと変わらない人物がいた。それが幸山やえだった。

「はじめまして。よろしくお願いします」

ふわっと柔らかく笑う、人当たりの良い彼女。
折り合いが悪くなり社員が大量に辞めた時も、社内の雰囲気が悪くなった時も幸山さんだけは俺の味方でいてくれた。

「皆さんで頑張れば大丈夫です。社長の想いはきっとわかってもらえます。お菓子食べて元気出しましょう。ね、社長」

そんなことを言いながら、自腹で買ってきた個包装のお菓子を配り歩いていた。

俺も一つ握らされ「美味しいものを食べると元気が出ますよ」と励まされた。

今でこそ社員の信頼を得る事が出来ている俺だが、ずっと陰で支えてくれていたのはほかでもない、幸山さんだったのだ。感謝してもしきれない。

そんな彼女のことを俺はとても大切に思っている。
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