愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「……しゃちょぉ」
小さな声でつぶやいた瞬間、幸山さんの顔がくしゃりと歪む。
「どうした? 何があったんだ?」
「うっ、うっ……」
みるみるあふれ出した涙が雨と交じり合う。よく見れば全身がずいぶんぐっしょり濡れて、胸ははだけて下着が見えているし靴も履いていない。ストッキングは所々破れ、細かな傷で血が滲んでいる。
血の気が引いていくのがわかった。
嫌な予感しかしない。
こんなの誰かに襲われたとしか――。
ぐっとワイシャツが握られたことで、我に返る。
固く握られた手はガタガタと震え、思わずその手を包みこむように握った。
ひどく冷たく冷え切っていて、恐ろしくなる。
「大丈夫か?」
「……死にたいです」
消えそうな声でつぶやいた幸山さんはそのまま俺の胸に頭をこすりつけ、堰を切ったかのようにわんわんと泣き出した。
俺は衝撃のあまり言葉を失い、しばらくこの状況を理解することができなかった。
ただ、小さくなった幸山さんをどこにも行かないように力いっぱい抱きしめる。それだけで精いっぱいだったのだ。
雨はその後もしとしと降り続き、朝まで止むことはなかった。