愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「しゃ、社長?」
離れようと胸を押してみるもびくともしない。
いつものワイシャツを着ているから仕事帰りに私の様子を見に来て下さったのだろうか。だとしたらとてもありがたいし申し訳ない。
「今まで辛かったな」
抱きしめながら優しく頭を撫でられる。
その声音はとんでもなく優しさを含んでいて体の奥深くまで浸透していった。
「な、なんで……」
声が震え、詰まった。
社長の言葉は紛れもなく私に対して言っている。
今までつらかった、だなんて、家庭環境のこと他ならない。
私、そのことを社長にも誰にも何も言ってないはずなのに――。
「覚えていないか? それならそれでいい。無理に思い出すことはない」
「い、いえ。死のうとしたことまでは覚えています」
そうなんだ。飛び降りようとしたところを社長が引き上げてくれてわんわん大泣きしたところまでは覚えている。でもそのあとの記憶がない。
私は社長に何か言ったのだろうか。
「そうか。その時にいろいろ話してくれたよ。家庭のこととか」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「迷惑なんかじゃない。迷惑かけてもいいから死ぬなんて口にするな」
ぐっと腕に力がこもるのがわかった。
こんな風に誰かが私を必要としてくれることに体の奥が熱くなる。生きていてもいいんだって思わせてくれる。
社長は優しい。
優しすぎて泣きたくなる。
「……はい」
小さく返事をすれば更にきつく抱きしめられ、嬉しさと戸惑いでどうしたらいいかわからなくなった。