愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
社長室を出た私と敦子さんは普段の仕事に戻った。

「ところでやえちゃん、体の調子はいいの?」

「はい、もうすっかりと」

「突然一週間もお休みだって言うからびっくりしちゃったわよ」

「そうですよね。ご迷惑をおかけしてすみません。皆さんにもきちんとお詫びしなくちゃ」

「いいのいいの。普段みんなやえちゃんに頼りっぱなしなんだから、たまには自分でやればいいのよ。やえちゃんのありがたみが身に染みたんじゃないかしら?」

敦子さんはニヨニヨと意地悪く笑う。
ありがたみだなんて、そんな大層なことはしていないけれど、もしも私を必要としてくれるなら嬉しい。

「ところでさ」

敦子さんは急に声をひそめる。
私だけに聞こえるようにそっと耳打ちした。

「まさかおめでた?」

「なっ!」

一瞬で体中の熱が放出された気がした。
思わず赤くなってしまった頬を両手で隠す。

「ま、まさか、そんなわけないじゃないですか」

「そう? つわりで休んでたのかと勘ぐっちゃったわ」

「も、もうっ、敦子さんったら」

智光さんとはそんな関係じゃないのに変に動揺する。だけど同時にそんな関係ではないことを実感してしまって、胸がズキンと痛んだ。

この結婚は智光さんの慈悲なのだ。
そう、いわゆる仮初め。
だから私たちの間にそんな間違いが起こるはずはない。

それが当たり前でわかりきっていることなのに、どんなに言い聞かせても胸はヒリヒリと悲鳴を上げた。

しっかりしろ、私。
これ以上智光さんを好きになったらいけない。
深みにはまって抜け出せなくなる。
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