愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
私たちはその足で役所へ向かった。
いいのだろうかという不安を抱えつつも、智光さんへついていく。申し訳ない気持ちと智光さんを好きな気持ちが交錯する。それなのに、こんなとんでもない誘惑はいとも簡単に私の心をさらっていくのだ。
「やえ、今日は結婚記念日だ。ディナーでもしていこう」
「ディナー?」
のこのこと智光さんについていけば、外観から高級そうなホテルの高層階レストランにあれよあれよとエスコートされてしまった。今日は智光さんの実家にご挨拶に行くからと綺麗めなワンピースを着ていてよかったと思う。ドレスコードなしじゃ絶対入れない。
というか……。
このワンピースも智光さんに買ってもらったもの。智光さんったらこのレストランに来ることも計画していたんじゃ……?
そんな智光さんを見れば、三つ揃えのスーツがとんでもなくよく似合っていてかっこいい。ずっと見ていられる。
……本当に、私の旦那様なんだよね?
どうしよう。こんなの贅沢すぎる。ドキドキが抑えられない。
夜景の見えるテーブル席は大きなガラス張りで、街の明かりがキラキラと宝石のように輝いて見えた。
「乾杯しようか」
グラスに注がれたシャンパンが小さく泡を立てる。
「今日から夫婦としてよろしく」
「よろしくお願いします」
カチンとグラスが綺麗な音を立てた。
そっと口を付ける。柑橘系の爽やかでほんのり甘い香りが口いっぱいに広がった。
「ん、美味しい。これってお酒ですか?」
「ああ、そうだが……。もしかして飲めなかったか?」
「いいえ。実はお酒を飲むことが初めてで……。こんなに美味しいものだったんですね」
私はもうひとくち口に含む。炭酸が口の中でしゅわっと弾けてとてもいい気持ち。今日私はまたひとつ大人の階段を上ってしまったかも。智光さんと一緒にいると、今まで知らなかったことがたくさん経験できる。いろんなことを教えてくれる。嬉しくてたまらない。