愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
軽く衝撃を受けながらもどうにかやえを自宅まで誘導する。するとやえははっと目を開けてウロウロとし始めた。
「どうした?」
「叔父さん叔母さんに挨拶しないと怒られる」
先ほどまでフニャフニャと喋っていたのに急に滑舌が元に戻っている。
ゾクリと背筋に嫌な汗が流れた。
「やえ?」
「あっ、洗濯物取り込まなくちゃ。明日のご飯の支度もしないと……」
「やえ、ちょっと待って。落ち着け」
「だってちゃんとしないとまた怒られちゃうから」
ソワソワするやえを後ろから思い切り胸の中に抱え込む。
「やえ、よく聞くんだ。ここは俺とやえの家だ。叔父さんと叔母さんはいない」
「いない?」
「そうだ。今日俺たちは結婚しただろう?」
「結婚……」
その言葉に、すっとやえの体のこわばりが緩まった気がした。
やえはくるりとこちらに体を捻る。
「智光さん……好き」
またとろんとした目に戻ったやえは俺の首に手を回し、ぎゅうっと抱き着いてくる。
目まぐるしく変わるやえの態度にショックを受けながらも、この小さな体がどこへも行かないようにきつく抱きしめ返した。
あの日泣きじゃくりながら自分の身の上を話したやえ。
話だけではわからなかったやえの今までの行動が垣間見え、俺の中で戦慄が走った。
やえの心の闇は深い。
なんとしてでも取り除いてやりたい。
「やえ、好きだよ」
「ん……」
微かにもれた声。
伺い見れば、やえはすやすやと寝息を立てていた。