愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
智光さんと暮らし始めて一カ月。
家事なんてしなくていいと言われているけれど、どうしても身に付いてしまっている朝のルーティン。
洗濯を干して朝食をつくる。ずっと義務でやっていた家事だけれど、今は違う。

智光さんはいつもいただきますと言ってくれて、美味しかった、ごちそうさま、までセット。たまにやえは料理上手だなって褒めてもくれる。

それが嬉しくて一生懸命になる私。
洗濯は二人で干したりたたんだり、手の空いてる方がやることが当たり前のように自然と役割分担ができあがった。

「俺は料理が出来ないからやえに申し訳ない」

ふと智光さんが気遣ってくれた言葉。
料理ができなくても智光さんはそれ以上にいろんなことをしてくれる。だから私もできることはしたいなぁって思う。

そんな日々を過ごしていたら、ついに家具一式が新居に届いた。組み立て・配置までしてもらうとまるでモデルルームのようにおしゃれな空間が広がる。

ここにこれから住むことになるんだ……。

「これで準備は完璧だな。早々に引っ越そうか」

「そうですね」

わくわくする気持ちとドキドキする気持ち。
新居に寝室はひとつで、例のベッドが設置されている。

……本当に一緒に寝るんだ?

考えるだけで速くなる鼓動に私は落ち着け落ち着けと何度も暗示をかけた。
そんなことばっかり考えて、実は自分は不埒なのだろうかと焦ってしまう。
もう、本当に、煩悩どっかいって。

「……頑張って働きますね」

「うん?」

「智光さんにばかりお金の負担はかけられませんから」

無理やり思考を元に戻した。
そうだよ、私の貯金はゼロなんだ。働いて少しでも智光さんに返さなくちゃ。それこそ申し訳ない。

「……くれぐれも無理はするなよ」

智光さんはぽんぽんと頭を撫でてくれた。
否定しないで受け入れてくれることが本当に嬉しい。
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