優しく、ぎゅっと抱きしめて

そうしてそのまま帰るはず……だったんだけど。



「…………」



私の横にある下駄箱の名前に、どうしても目がいってしまった。



左端から出席番号順に並んだ下駄箱の位置的に、どうしても避けては通れない。



『月森』という苗字である以上、『知賀』は左隣にあるわけで…。



もしかして、下駄箱ならいける……?



そんな思いがちらつき始める。



いや、でもなぁ…どうせ渡すなら直接……って、それがダメだったんだからここにいるんじゃん!



「楓ー?なにしてんの?もう時間ギリギリなんだけどー!」



あれこれ悩んでいたら、少し不機嫌そうな美來の声が聞こえて焦る。



あーもう!私の意気地無し……!!



持っていたチョコレートの箱を、思い切り隣の下駄箱に突っ込んだ。

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