優しく、ぎゅっと抱きしめて

辻くんは自分のカバンだけを持って立ち上がると、そのまま部屋を出ていった。



去り際に見た辻くんの口角が、少しだけ上がっているように見えて。



も、もしかして……。



辻くんがさっき言ってた“いいこと”ってこのことだったの…!?



今更そんなことに気がついても、この空気がどうにかなるわけでもなく。



「「…………」」



私たちの間に流れる沈黙。



体に回された長い腕は、離さずに絡みついたまま。



私の胸の高鳴りは収まることを知らず、ドキドキは加速するばかり。



距離はほとんどゼロに等しく、キャパオーバーしそうになっていたとき。



「…はぁ」



小さく吐かれたため息が私の耳にかかって、肩がぴくりと跳ねた。



「…かっこわるすぎだろ、俺」



「…知賀くん?」
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