ぼくの話をしようと思う



びっくりした。



生きてた頃の世界では、ぼくなんて、もはや「過去の俳優」だったから。



「あの人は今」レベルのね。



だから、なんでぼくのこと覚えてるんですかって感じだった。



まあもちろん、彼女……そう、彼女は繭っていうんだけど…。



繭とのつながりで覚えていてくれたんだと思うけどさ。



それでぼくは、そうですって言った。



そしたら、その瞬間。



周りが一気に騒がしくなったんだ。



ぼくはてっきり、繭が来たんだと思った。



でもそうじゃなかったんだ。



周りの視線は、ぼくに集中してた。



『繭の彼氏だって?!』



『どいつだ!』



そんな声がたくさん聞こえてきた。



そこからはもう、ぐっちゃぐちゃだよ。



顔見せろーとか、繭とどういう関係だーとか。



どういう関係って、だから、彼氏だっていってんのに。



とにかくぼくは、話しかけてきた人も見失うくらい、もみくちゃにされた。






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