ぼくの話をしようと思う
『もう、行かなきゃ』
振り向いた繭の顔は、思いの外すがすがしかった。
『ほんとは、もっとおじいちゃんになったコウちゃんに会いたかったな!』
って言ったときの繭は、ほんとにかわいくて、愛しくて…。
だけどぼくは、遠ざかる繭を追いかけることもできなくて、立ち尽くしてるだけだった。
ただ黙って、繭が、未練を果たして生まれ変わりコースに導かれて行くのを見てた。
ほんとはぼくも、その隣にいるはずだったのに。
中園さんとアヤ子さんみたいにね。
こんな血まみれな姿を見せて、怖い思いをさせるつもりなんてなかったんだ…。
何も言えず、呆然と立ち尽くすぼくに背を向けて歩き出した繭を、今度はあの男が呼んだ。
『水川さん!』
傷だらけの体から絞り出したような声だった。
『生まれ変わったら、どうか幸せな人生を!』
繭は、ちょっと振り向いたけど、そのまま黙って歩いていった。