ぼくの話をしようと思う
でも、繭とゆっくり話せなかったのは、残念だなぁ。
ぼくはね、繭がこの天国にいるって知って、会えたら言おうと思っていたことがあるんだ。
女優だったせいで悲惨な死に方をしたのに、ぼくのために、こっちでもう一度女優をやっていた。
その勇気を、褒めてやりたかった。
誰にも奪えない、彼女の真の輝きを、称えてやりたかった。
…ああー…。
…あのとき、どんなに怖かっただろう。
どんなに苦しかっただろう。
どんなに痛かっただろう。
僕が助けに来ると信じて待っていたかもしれない。
司法解剖が終わって、咽喉がひどく炎症をおこしていたって聞いたんだ。
きっと、声の限りに、助けてと叫んでいたんだと思う。
さるぐつわを噛まされたまま、
言葉にならない声で、
コウちゃん助けて、って叫び続けたんだと思う。
それなのに僕は、仕事を放り出して繭を探しに行くことすら、できなかった。
頭の中は繭でいっぱいだったのに…。
撮影スタジオの隅にあるテレビで、ニュース画面に映し出される繭の写真を、スタッフと一緒に眺めていただけだった。
だから、褒めてやりたかったんだ。