【短編集】 Blue moment
episode5
「大きくなったらお嫁さんになってあげる。」
昨日の夜、突然、姉から呼びださた。
すぐに見つけられるように待ち合わせのカフェの窓際に座り、外の景色をぼーっと見つめながら姉が来るのを待っていた時だった。
ふと、幼稚園の頃のワンシーンを思い出した。
だいぶ傲慢なセリフだったな…。
せめて『お嫁さんにして。』とかだったら少しは可愛げがあっただろうに。
確か、女の子である私よりもまつ毛が長く目元がぱっちりとした可愛い男の子だったなぁ…。
名前何だったっけ?
『遥斗』だったかな?
なんで、あんなこと言ったんだったけ??
飲みかけのまだ温かいカフェオレをマドラーでクルクルと混ぜながら考えていた。
あぁ……、そうだ。あの日は遥斗くんが引っ越しするからって幼稚園でお別れ会をした日だ。
遥斗くんに『郁ちゃんにまた会えるようにお手紙書いていい?』と聞かれ、もともと素直じゃなかった私はお別れするのが悲しくて『王子様になったなら手紙書いていいよ。』と答え、更に『もし王子様になれたなら、大きくなったらお嫁さんになってあげる。』と言ったのだ。
…恥ずっ。
昔のことを思い出し恥ずかしくなると誤魔化すために混ぜていたカフェオレを多めに口に含んだ。
カフェテーブルにおいたスマホの画面をチラリと見るが待ち合わせの時間は過ぎているのに姉からはなんの連絡もなかった。
「すみません、ここいいですか?」
サングラスにキャップにマスク。
以下にも怪しそうな男の人が目の前に座りこちらをみてニコニコと微笑んでいる。
「すみません、ここ、人がくるんで…。」
「お姉さんなら来ないよ。」
「え?」
なんで姉と待ち合わせしていることをこの人は知っているの?
向かいの席に座った男性はサングラスを外し上目遣いでチラリとこちらを見た。
サングラスを外すと、どこか見たことがある瞳をしていた。
「郁ちゃん、俺のこと覚えてない?」
なんで私の名前まで知ってるの??
驚きすぎて言葉が出てこない。ただ、目の前に座った男性が誰なのかを思い出すためにじーっと見つめることしかできないでいた。
「俺たち、結婚の約束したんだけどなぁー。」
「まさか…。遥斗くん!?」
びっくりして声が大きくなった私の口を大きな彼の手で塞がれた。
「しーーーっ。バレたら大変なんだ。」
「どういうこと?」
「これ見て。」
見せられたスマホの画面には『ショコラプリンス』と書かれたアイドルグループの画像だった。
「ショコラプリンス?」
アイドルグループには全く興味がない私にはなんのことかわからなかった。
「俺、今売れてるショコプリのメンバー何だけど、気づかなかった?来月からドームツアーまでやるんだけどなぁ…。」
「…ごめん。アイドルとか全く興味なくて…。」
「俺、ちゃんとの約束守ったんだから郁ちゃんも守ってよ。」
「えっ?約束って?」
「何?忘れたの?…俺、一度も忘れたことなんてないのに…。」
「もしかして…。」
「俺、王子様になったからお嫁さんになってくれるんでしょ?」
まさか本当に王子様になってしまうなんて…。
当然、答えは「YES」だった。